東京高等裁判所 昭和59年(ネ)1768号 判決 1985年3月28日
控訴人(附帯被控訴人) 綜合ゴルフサービス株式会社
右代表者代表取締役 石川周三
右訴訟代理人弁護士 堀廣士
同 清水紀代志
被控訴人(附帯控訴人) 福川賢二
右訴訟代理人弁護士 江藤馨
主文
1 原判決中控訴人(附帯被控訴人)敗訴の部分を取り消す。
2 被控訴人(附帯控訴人)は控訴人(附帯被控訴人)に対し本厚木カントリークラブの平日会員権(出資金証書番号W第六〇三号)の名義変更承認願手続をせよ。
3 本件附帯控訴を棄却する。
4 訴訟費用は第一、第二審とも被控訴人(附帯控訴人)の負担とする。
事実
一 控訴人(附帯被控訴人、以下控訴人という。)代理人は、主文第一、第二項及び第四項と同旨の判決を求め、被控訴人(附帯控訴人、以下被控訴人という。)代理人は、控訴棄却の判決を求め、附帯控訴として「原判決中附帯控訴人敗訴の部分を取り消す。附帯被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、第二審とも附帯被控訴人の負担とする。」との判決を求め、控訴代理人は附帯控訴棄却の判決を求めた。
二 当事者双方の主張は、次に付加・訂正するほかは、原判決事実摘示「第二 当事者の主張」欄に記載のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決三丁裏三行目の「イシイゴルフ」の前に「1」と付加し、同六行目の次に行を改めて次のとおり付加する。
「2 被控訴人において本件会員権についてのイシイゴルフの権利行使を承認すべき義務は、イシイゴルフの被控訴人に対する金四〇〇万円の支払い義務(前記の売買残代金請求権もしくは前項の解除による本件会員権返還不能の場合における損害賠償請求権に基づくもの)と同時履行の関係にあるところ、控訴人がイシイゴルフから取得した権利は右抗弁権が付着した権利であるから、被控訴人は、右金四〇〇万円の支払いを受けるまで、控訴人の権利行使を拒絶するものである。」
2 同三丁裏八行目に「抗弁事実は不知。」とあるのを「抗弁1の事実は不知、同2については争う。」と訂正する。
三 《証拠関係省略》
理由
一 請求原因1の(一)の事実、同1の(二)のうち、被控訴人が会員資格継承承認申請書及び委任状に署名押印してイシイゴルフに交付したことを除くその余の事実及び同3の事実はいずれも当事者間に争いがない。
二 右当事者間に争いのない事実に《証拠省略》を総合すると次の事実が認められ、これに反する証拠はない。
1 被控訴人は、昭和五六年一一月ころイシイゴルフの仲介で本件会員権を譲り受けこれを所有していたが、同五八年二月一六日ころ、イシイゴルフから右会員権を他に売却するため譲渡して貰いたい旨申し込まれ、前記のとおり代金六〇〇万円でこれを譲渡することを承諾した。被控訴人は、同月二一日、イシイゴルフから「先方(転売先)から頭金二〇〇万円をもらっているため、本日関係書類を見せないと信用問題になる。白紙でもよいから是非渡して貰いたい。」と言われ、同日、イシイゴルフに対し、裏面の「譲渡人記名調印」欄の訴外篠崎道雄と署名押印のある次の欄に被控訴人が署名押印をした訴外馬淵義雄名義の出資金証書、被控訴人名義の平日会員証、被控訴人の印鑑登録証明書(昭和五八年二月一八日付)、いずれも被控訴人の署名押印のない会員資格継承承認申請書用紙、委任状用紙、念書の用紙、紛失届の用紙を交付した。なお、被控訴人はイシイゴルフに対し、本件会員権を譲り受けた同五六年一一月ころ余分に交付したものか、それとも本件会員権譲渡の際交付したものかその時期については明らかではないが、いずれにしても被控訴人が署名押印したゴルフ会員権の譲渡及び名義書替手続に関する一切の権限を委任する旨の委任状を交付していた。
2 控訴人は、昭和五八年二月二一日、イシイゴルフから本件会員権を代金六四〇万円で譲り受けて即日代金全額を支払い、前記出資金証書、平日会員証、印鑑登録証明書及び被控訴人の氏名住所の記載と押印のある白紙委任状とともに、譲渡人として被控訴人の住所氏名の記載と押印のある会員資格継承承認申請書の交付を受けた。右会員資格継承承認申請書は、前記のとおり被控訴人の署名押印がなく白紙で交付された会員資格継承承認申請書用紙にイシイゴルフ側で被控訴人の住所、氏名を記載し、被控訴人の印影を顕出したものであり、被控訴人は右の事実を知らされていなかった。
3 被控訴人は、右同月二八日ころ、イシイゴルフから本件売買代金の一部として金二〇〇万二、〇〇〇円の小切手の交付を受けたが、その後残代金の支払いに不安を感じたため、イシイゴルフに交付済みの各書類の返還を求めたところ、いずれも署名押印のない会員資格継承承認申請書用紙、委任状用紙、念書の用紙及び紛失届の用紙の交付を受けたのみでその余の書類は返還されなかった。イシイゴルフは右残代金を支払わないまま同月末ころ倒産するに至った。
三 《証拠省略》を総合すると、ゴルフ会員権は財産的価値を有し、転々譲渡されてその取引も盛んであること、ゴルフ会員権は、会員のゴルフ場経営会社に対する出資金返還請求権、優先的施設利用権、会費支払義務等を内容とし、これらの権利義務を包括した契約上の地位というべきものであって、これを自由に譲渡することができ、譲渡した場合には譲受人がゴルフ場経営会社にその旨を申し出てその変更登録をしなければ同会社に対して譲渡の効力を主張することができないものとされていることが認められる。したがって、ゴルフ会員権の譲渡人としては正当な譲受人に対して名義書替手続に協力する義務があるというべきである。そして、ゴルフ会員権は右のとおり転々譲渡されることが予想されるのであるから、右会員権を譲渡するに際し、関係書類を交付するのが一般的であるところ、将来正当に右書類を取得するすべての者に対して名義書替手続に協力することをあらかじめ承諾していたものと認められる場合には、譲渡人は、直接の契約当事者以外の第三者に対しても右手続に協力する義務を負うものと解するのが相当である。
本件会員権の譲渡についてみるに、前記のとおり、被控訴人は、イシイゴルフが本件会員権を取得してこれを第三者に転売することを了知しており、イシイゴルフに対し、裏面の「譲渡人記名調印」欄に被控訴人が署名押印している出資金証書、被控訴人名義の平日会員証、被控訴人の印鑑登録証明書、会員資格継承承認申請書用紙その他の関係用紙を交付し、更に別途被控訴人が署名押印したゴルフ会員権の譲渡及び名義書替手続に関する一切の権限を委任する旨の委任状を交付していたが、これをイシイゴルフに預けたまま放置し、自由に使用し得る状態にしていたのである。これらの事実を総合すると、被控訴人において前記の名義書替手続、すなわち平日会員権の名義変更承認願手続に協力することをあらかじめ承諾していたものと推認することができ、したがって被控訴人は本件会員権の正当な譲受人たる控訴人に対し、同会員権についての名義変更承認願手続に協力すべき義務があるというべきである。なお、被控訴人がイシイゴルフに交付した会員資格継承承認申請書に被控訴人の署名押印がなく、また控訴人に交付された右申請書が偽造されたものであったとしてもこの一事をもっては右認定を覆すに足りない。
四 次に抗弁について判断するに、《証拠省略》によれば、被控訴人がイシイゴルフに対し譲渡契約解除の意思表示をしたのは昭和五八年二月二八日以後であることが認められる(なお、被控訴人は解除の時期は昭和五八年二月末頃であると自認する。)ので、被控訴人は、右解除前の同年同月二一日にイシイゴルフから本件会員権を譲り受けた控訴人に対しては、解除の効果を主張することができない。
また同時履行の抗弁権は、留置権と異なり一個の双務契約に基づく相手方の権利行使を阻止しうるにとどまり、当該契約の当事者以外の者に対しては援用することができないと解すべきところ、被控訴人とイシイゴルフ間及びイシイゴルフと控訴人間の本件会員権の各譲渡契約は全く別個のものであって、控訴人は前の契約における当事者ではなく、控訴人に対し同時履行の抗弁を援用するに由ないため、被控訴人の主張は失当である。
してみれば、被控訴人の抗弁はいずれも採用することができない。
五 以上の次第であって、控訴人の本訴請求はすべて理由があるからこれを認容すべきであり、右と結論を異にする原判決中控訴人敗訴の部分は失当であるからこれを取り消したうえ、控訴人の本件平日会員権の名義変更承認願手続を求める部分を認容し、本件附帯控訴は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 岡垣學 裁判官 大塚一郎 佐藤康)